特定技能実習生に関する協力覚書とは?受入国や国別の入管手続きも
少子高齢化に伴う労働力不足が深刻化する中、外国人材の活用が急務となっています。2018年に創設された「特定技能制度」は、一定の専門性・技能を有する外国人材を特定分野に限定して受け入れる制度です。
本制度で外国人材を受け入れるためには、送出国との間で交わす「二国間の協力覚書」が重要なポイントとなります。協力覚書は国ごとに内容が異なりますが、送出手続きや必要書類などを定めることで、円滑な受入れを図ることを目的としています。
企業が特定技能制度を活用するには、送出国ごとの手続きや規定を理解し、適切に対応することが求められます。本記事では、特定技能制度における協力覚書の概要や受入対象国について解説するとともに、送出国別の留意点を整理していきます。
特定技能に関する受入れ対象国と二国間の協力覚書とは?
平成30年、出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法(以下「入管法」という)により「特定技能制度」が創設されました。この制度は、特定分野の人手不足を解消するために、外国人労働者を受け入れることを目的としています。原則的にはどの国の外国人も在留資格「特定技能」を取得することができますが、実務上取得できる国は限られています。
創設当初、日本政府はベトナム、フィリピン、カンボジア、中国、インドネシア、タイ、ミャンマー、ネパール、モンゴルの9カ国を対象としていましたが、その後、マレーシア、スリランカ、バングラデシュ、ウズベキスタン、パキスタン等が加わりました。2024年2月時点において、協力覚書を交わしている受入国(送出国)は下記の15か国です。
フィリピン カンボジア
ネパール ミャンマー
モンゴル スリランカ
インドネシア ベトナム
バングラデシュ ウズベキスタン
パキスタン タイ
インド ラオス
ブータン
この制度の特徴は、来日しようとする外国人から保証金を徴取するなどの悪質な仲介事業者の排除を目的とする情報共有の枠組みを構築するために、各国と二国間取決めを作成していることです。つまり、特定技能制度において外国人材を受け入れるためには、日本と送出国との間で協力覚書を交わすことが重要なのです。
二国間の協力覚書とは?
二国間の協力覚書は、特定技能制度において外国人材を受け入れるために、日本政府と送出国政府との間で交わされる取決めです。この覚書には、特定技能外国人の送出や受入に関する両国の協力内容が定められています。
具体的には、以下のような基本的な連携枠組みが含まれます。
・特定技能外国人の送り出しや受け入れを行う目的を共有すること
・協力覚書に基づく協力を効果的に行うための連絡窓口を設置すること
・協力及び情報共有を通じて得た他方の国の省庁又は省の秘密情報を第三者に開示しないこと
・協力の範囲を設定すること(日本の省庁の約束、対象国の省の約束、情報共有、合同委員会)
・制度の運用を開始して2年後に枠組みを見直すこと
二国間の協力覚書は、特定技能制度の根幹をなす重要な取決めです。送出国と緊密に連携することで、特定技能外国人の適正な送出・受入を図ることができます。
二国間の協力覚書の取決めをしていない国からの受け入れは?
二国間取決めを作成した国の国籍であることを受入れの要件とはしていないことから、これを作成していない国の外国人であっても受け入れることは可能となっています。
ただし、送出国によっては独自の送出手続きが定められている場合があります。詳細は後述しますが、在留諸申請の前に、送出国での手続きを確認しておくことをおすすめします。送出手続が整備中の国の場合でも、入管法令に従って在留諸申請を行うことは可能です。
特定技能外国人の国籍ごとの各種手続きのポイント
特定技能外国人の受入れに際しては、二国間取決めの有無によって、必要な手続きが異なります。ここでは、送出手続きの確認が必要な場合とそうでない場合に分けて、それぞれのポイントを解説します。
送出手続きのある国の場合
二国間取決めを作成した国の中には、自国の国内規定に基づき送出手続を定めており、その手続を行ったことを証明する書類を発行している国があります。
二国間取決めにおいて、日本側がこの書類の確認を行うことが規定されている場合、在留諸申請の際に当該書類を提出した上で、入管法上の要件を満たしているかを総合的に判断することになります。
送出手続きのない国の場合
一方、二国間取決めにおいて書類の確認が規定されていない国については、在留諸申請の際に当該書類を提出する必要はなく、単に入管法令上の要件を満たしているかどうかで判断されます。
ただし、日本の在留諸申請が許可されても、送出国を出国するための許可が取れない場合もあり得ます。事前に送出国の手続きを確認しておくことが大切です。
在留諸申請の際に独自の提出書類がある国・送出手続のある国は?
それでは、在留諸申請の際に独自の提出書類を求めている国と、送出手続のある国を具体的に見ていきましょう。
(1)カンボジア
カンボジアからの技能実習生を受け入れる場合、登録証明書の提出が必要です。この運用は2019年8月5日から開始されています。
(2)タイ
タイからの技能実習生のうち、技能実習2号又は技能実習3号を修了し、特定技能へ在留資格を変更する場合は、駐日タイ王国大使館労働担当官事務所の認証を受けた雇用契約書の提出が必要となります。この運用は2020年7月27日から開始されています。
(3)ベトナム
ベトナムからの技能実習生については、2021年2月15日以降、推薦者表(特定技能外国人表)の提出が必要となりました。
在留資格認定証明書交付申請の場合は、あらかじめDOLAB(海外労働管理局)から推薦表(様式1)の承認を受けた上で、他の必要書類とともに地方出入国在留管理官署に提出します。在留資格変更許可申請の場合は、あらかじめ駐日ベトナム大使館から推薦表(様式2)の承認を受けた上で、他の必要書類とともに地方出入国在留管理官署に提出します。
ただし、在留資格「特定技能」の中での転職により、受入機関又は分野を変更するために在留資格変更許可申請を行う場合や、在留期間更新許可申請を行う場合には、推薦表の提出は不要です。
また、2021年4月12日以降、当面の間、日本に在留するベトナム国籍の方からの在留資格変更許可申請については、在留資格によって取り扱いが異なります。在留資格が「技能実習」の場合は推薦者表の提出が必要ですが、「留学」の場合は課程修了の期間等によって推薦者表の提出が必要な場合と不要な場合があります。「技能実習」「留学」以外の在留資格の方は、推薦者表の提出は不要です。
(4)フィリピン
フィリピンからの技能実習生を受け入れる場合、日本の受入機関が必要書類を駐日フィリピン共和国大使館海外労働事務所(POLO)に提出し、所定の審査を受けた上で、本国の海外雇用庁(POEA)に登録される必要があります。
その上で、フィリピンの技能実習生は、POEAから海外雇用許可証(OEC)を取得し、フィリピン出国時にOECを提示する必要があります。
(5)ネパール
ネパールからの技能実習生は、在留資格「特定技能」に係る査証を取得後、又は在留資格「特定技能」への変更が認められた後、再入国許可(みなし再入国許可を含む)により日本から出国し、ネパールに一時帰国した際にネパール労働・雇用・社会保障省雇用管理局日本担当部門から海外労働許可証を取得し、ネパールを出国時に海外労働許可証を提示する必要があります。
(6)インドネシア
インドネシアからの技能実習生を受け入れようとする日本側の求人募集に当たり、インドネシア側は同国政府が管理する求人・求職のための「労働市場情報システム(IPKOL)」に、日本側受入機関が登録することを強く希望しています。
特定技能制度に興味のあるインドネシア国籍の方は多く、日本での就職を希望している方は、このIPKOLにアクセスして求職先を検索するそうです。
また、在留資格「特定技能」に係る在留資格認定証明書を交付されたインドネシア国籍の方は、日本へ渡航するための査証申請を行う前に、自らインドネシア政府が管理する海外労働者管理システム(SISKOTKLN)にオンライン登録し、SISKOTKLN登録完了後に発行されるID番号を取得した上で、在インドネシア日本国大使館・総領事館に対して査証申請を行う必要があります。
(7)ミャンマー
ミャンマーから特定技能外国人として来日予定の方は、海外で就労する場合にはミャンマー労働・入国管理・人口省(MOLIP :Ministry of Labour, Immigration and Population)に海外労働身分証明カード(OWIC: Overseas Worker Identification Card)の申請を行う必要があります。
また、雇用契約を締結した日本に在留するミャンマー国籍の方は、在日ミャンマー大使館においてパスポート(更新)申請を行う必要があります。
(8)モンゴル
モンゴルから特定技能外国人を新たに受け入れるに当たっては、日本の受入機関がモンゴル労働・社会保障省労働福祉サービス庁(GOLWS)との間でモンゴル国籍の方の人材募集に関して双務契約の締結が求められています。
以上のように、国によって在留諸申請の際に求められる書類や手続きは様々です。外国人材の受入れを検討する際は、送出国ごとの最新の情報を入国管理局のウェブサイト等で確認し、適切に対応することが重要です。
参考:特定技能に関する二国間の協力覚書 | 出入国在留管理庁
特定技能外国人の受け入れ除外国とは?
特定技能外国人の受け入れにおいては、一部の国が除外国となっています。入管法における退去強制令書が発付されて送還されるべき外国人について、自国民の引取り義務を履行しない等、退去強制令書の円滑な執行に協力しない国・地域の外国人については、特定技能外国人としての受入れを認めていません。
2023年4月時点で、イラン・イスラム共和国が除外国とされています。
企業が特定技能外国人の受入れを検討する際は、除外国に該当しないかどうかも確認しておく必要があります。
まとめ
本記事では、特定技能制度における二国間の協力覚書の概要や受入対象国について解説し、国ごとの手続きの違いや留意点を整理してきました。
特定技能制度を活用した外国人材の受入れは、日本企業にとって人手不足の解消に有効な手段です。一方で、国によって求められる手続きや提出書類が異なるため、送出国の規定を理解し、適切に対応することが求められます。
二国間の協力覚書の内容を把握し、送出国ごとの手続きを遵守することで、外国人材の円滑な受入れが可能となります。外国人材の活用を検討している企業の方は、本記事を参考に、適切な準備と対応を進めていただければと思います。
みなさんの応援が私たちの力になります!
いつも"Goandup Picks"をご覧いただき、ありがとうございます。私たちは日本の魅力を世界に発信するために、より有益な情報をお届けすることを使命としています。
皆さんのサポートが、私たちの活動をさらに充実させる力となりますので、ぜひ応援してください!